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消極的選択ということ [日記]

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9月の初めにちょっと遅い夏休みをもらって氷見へ。夕暮れ時の鱗雲。
美味しい魚と穏やかな海以外は何も無い場所。と思いきや、新しい動きもあったりして。

都会的な洗練をあまりにもストレートにローカルな場所に表現してしまうことは、いい意味でのローカリズムを消してしまう事になりやしないか、などと東京から来た者はついつい思ってもしまうのだけど、でも人を惹き付ける力強さみたいなものはしっかりと感じたりもした。ただし、デザイン、ビジュアル表現、建築、空間表現、それらが人の印象にもたらす影響の強さは否定できない。さじ加減が鍵かもしれない。何事も。

東京を代表とする、都会の洗練されたセンスをローカルな素材を活かしつつそこに持ち込む、そんな流れはこれからますます加速していきそうだな、と思う。

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そしてそれとは対極の、世界遺産に登録されミシュランガイドで三ツ星を獲得した合掌造りの村。昔から変わらぬ家屋。そこには日常生活を営む人々がおり、お邪魔して滞在させてもらう。表面的には洗練される方向とは逆のベクトルと思われるかもしれない。しかし、実は究極の素朴さが洗練された一つの表現となり、交通アクセスやインターネットなどのテクノロジーの深化が、素朴な洗練を維持することを可能にしたとも言えるのかもしれないな、とも思う。

そんな旅や、最近受けた取材、そこで交わした会話から考えたこと。思い出したこと。
どこの国に、どの土地に、どんな親のもとに、どんな家系に、どんな容姿に、どんな能力を持って産まれるかは、自分では選択できないこと。どんな教師と出会い、どんな教育を受け、どんな上司に出会い、どんな人達と出会うか、それらも完全にはコントロールできない。どんな仕事をして、誰と関わって、何を目的とするか、それらは自分である程度選択できるが、ままならないことも多い。しかし一般的には、選択できない、コントロールできない要素も、自分で選択したい、と思い、思われている。でももっと深く考えてみると、選択できると思っていることも実は完全に選択できるわけではないし、選択できない事が必ずしも悪い事で嘆くべき事ばかりではないという結論にも至る。

日本に生まれ、東京の西の方で育ち、国立の北で商売をしている。最初の2つは自分の選択ではない。最後の1つもいわば消去法でもある。積極的選択というよりも、消極的選択だ。しかしその運命を受け入れた事で、今の自分がある。幸いな事に悪い方向には向かっていない。room 103も、積極的に探した物件ではない。たまたま2件隣が空き、半年以上テナントが入らなかった。明確な戦略があったわけでも事業計画があったわけでもなく、半分周囲に背中を押されての、手探りの状態でのオープン。決して常に100%積極的な選択をしてここまで来たわけではない。

もっと遡れば、ほんとうに就きたい職は別にあったし、この業界に入ったのもわりと偶然だった。残念ながら自分にはやりたい仕事に対する才能とセンスが無く、やってみてはそのやりたかった事に1つずつ×を付けて流れ着いた仕事みたいなものだ。まさか自分が接客業に就き、店を出し、ギャラリーみたいなスペースを運営するとは20代前半には、いや、後半まで、いやいや、30代の前半まで思ってもみなかった。

今思えばそれが良かったのかな、とも思う。選べないのも自分の能力の限界であり、いい意味で諦めるということを知った。そして、今は選ぶ事を許してもらえるもの、つまり消極的な選択の結果に向き合う事での自分の感覚の広がりを実感している。「たまたま」そうだったという条件から導かれる結果の、実はなかなかにエキサイティングな事。

生まれた場所や自分の容姿や能力、その偶然と必然からなる環境からせざるを得ない消極的な選択。しかしそのおかげで、人の感覚は広がり、磨かれる。ないがしろにしてはいけない。どうせなら消極的な選択をとことん利用し、楽しんでしまえばいい。願い続ければ必ず夢が叶うわけではないし、人には無限の可能性があるわけではない。残念ながら。しかしだからといって、何かを諦めたからといって、消極的な選択をしたからといって、決して人生そのものが残念な結果になるというわけではない。それが人間の面白い所だし、すごい所だ。その可能性には誰にでもある。

全てを積極的に選択できること、することが必ずしも幸福なことではないし、全てをコントロール出来るようになることが、生きていく上で最も大切な目的ではないとも思う。ままならない諸々とどう付き合い、どう向き合っていくか。その葛藤こそが感覚を磨き、広げ、その葛藤を経験して自己を承認し他者を承認する、という過程を経る事が、生を充実させる鍵になると思う。強いて言えば、「消極的な選択」をポジティブな結果に導く為の「積極的な選択」は重要で必要だ、と言えるかもしれない。

今の時代だからこそ出来る事を存分に活用して。結果が出なかった挫折みたいな体験も含め、自分の感覚をフル動員して。

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美味しい魚以外には何もない富山の海。その贅沢さ。
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あまの

こんにちは。
  
「消極的選択ということ」
   
これ、一字一句残さずそのまま
へろへろになってるうちの迷える子羊に届けたいと思います。
 
ありがとうございます。

by あまの (2013-09-27 12:39) 

hara_taka

あまのさん

コメントありがとうございます。こちらこそいつもありがとうございます。

恐縮です。迷える子羊ちゃん、迷う時期があるからこそ、それを抜ける日も来るし、抜けきらないからこそ更新されていく意識や感覚があるのだとも思います。

いい方向が見つかりますように!

by hara_taka (2013-09-28 21:40) 

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