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「J・エドガー」 [日記]

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劇場に同じ映画を4回観に行った事、ありますか?生まれて初めてそんな経験をしました。個人的に絶大な信頼をおくクリント・イーストウッド監督の最新作、「J・エドガー」。


アメリカFBIの創設者であり、長く長官を務めた人物を描いた映画。ここで細かい内容に触れる事はしませんが、イーストウッド監督の深い人間理解、その理解に基づく厳しくも根本的にはやさしい視線、映画としての映像クオリティ、演出のきめ細かさ、役者さん達の演技、全てが心に深く刺さりました。

この映画においてイーストウッドは、「正義」「愛」「他者との結びつき」、それらの尊さと危うさを淡々と描いている印象でした。そもそも「人間」そのもの存在の矛盾やそれゆえの葛藤を描き続け、その時々で時代の価値観を揺さぶり、さらには自分自身が過去において描いてきた価値観さえも更新するような作品を取り続けてきた監督、その現時点での総括でもある様な気がしたのです。それを感じたからこそ、4度も劇場に足を運んでしまったのかもしれません。

背景まで細かく作り込まれ、全ての動作にきちんと根拠があるので観る度に新しい発見がありました。本当にいい映画というのは、決して意味の無いシーンは無いのでしょうし、雰囲気だけの演出なんて無いのでしょう。特別なシチュエーションやロケーション、無理矢理な設定や大仰な演出など無くても心には届いてくるものです。

「J・エドガー」においては、レオナルド・ディカプリオ演じる主人公には個人的には共感出来るポイントはほとんどありません。尊大で虚言癖があり、自分を必要以上に大きく見せる事に執着し、さらには差別的であり、時に汚い手を使ってでも自分の権限を広げようとし、守ろうとする、人間性にはほとんど感情移入出来る要素が無い人物として描かれます。しかし同時に、彼自身の様々な葛藤も包み隠さず描いて行くのです。それゆえ、最終的には人間性にも性的嗜好にも共感出来ぬ人物の、ついでに言うならばビジュアル的にも決して美しいとは言えぬ、それどころか最終的には醜悪にさえ感じられる人物の物語に心を揺さぶられてしまうのですから、イーストウッド監督への信頼は更に揺るぎないものとなりました。ついにここまで連れてこられたか、という感想です。

理解し、理解される事の難しさ、それゆえ、真に理解してもらえる他者の存在の尊さ、しかし、その結びつきの深さ故の暴走、それでも信じ切ることが出来る関係性。危うく、美しく、閉鎖的で、でも強く尊い関係性。しかし、その価値判断は観るものが各々の判断にゆだねられる、そんな作品だと思います。

万人にお勧め出来る映画ではありませんが、個人的には本当に大切な作品となりました。おそらくまだ見逃している部分、理解出来ていない要素がありそうです。DVDを買って、セリフをほぼ理解した上で字幕をオフにし、役者の演技とセットの細部まで集中して鑑賞しきる、そんな妄想を膨らませています。ちょっとビョーキに近いですかね。笑

どんな人にでも、共感出来る物語は無くはない。表面的な善悪や一般的価値観による美醜をこえて、そんな想像力を持ち続けることの意味。あらためてそんな事も思いました。

クリント・イーストウッドという映画作家の興味深さについてはまだまだ語り足りませんが、それはいずれまた。
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コメント 2

福生のウルマ

ご無沙汰しております!イーストウッド、僕も大好きな監督です。グラントリノ、繰り返し何回も観ました。エドガーもかなり気になっていたので、是非とも観てみたいと思います。あと来月末に妻とお店にお伺い致します!
by 福生のウルマ (2012-03-22 10:23) 

hara_taka

お久しぶりです!グラントリノ以降、別ステージに上がった気がしますね。そのステージの最終章のようにも感じました。ちょっと変な映画ですが(笑)。ご来店お待ちしております!
by hara_taka (2012-03-23 08:32) 

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